少年には、とても優しいお姉さんがいました。

両親を幼い時に亡くした弟と悲しませないように、母親のような優しい愛を注いでいきました。やがて、少年にとって姉は大切な存在になっていきます。少年はそんなお姉さんのことが大好きでした。

 

とある日のことです。

弟はいつものように姉の帰りを待っていましたが、いつまで経っても帰ってきません。遅くなるという話は聞いていませんが、きっと仕事が長引いたのだろう。そう思った弟はあたたかい料理を作り、姉の帰りを待つことにしました。それから何時間、何日、何週間経ったことでしょう。お姉さんは帰ってきません。あまりにも遅すぎる。きっと、姉に何かあったんだろう。そう思った少年は簡単な身支度を済ませようとした時。家のベルがリィン、と鳴りました。

 

姉が帰ってきたのだろう。そう確信した少年は、精一杯の笑顔で「お帰りなさい」と言います。しかし、予想外な光景が広がっていました。少年はあまりにも悲惨な現実を受け入れられず、その場で膝を付いてしまいます。ドアを開けた先にいたのは、姉と同じフードを被った女性の死体を抱え持つ猟師。そう、姉は帰ってこなかったのではなく、帰ってこれなかったのです。

 

お姉さんが倒れていた場所は、狼が住んでいるという噂のお花畑でした。そこはとても美しい花が咲き誇る場所で、姉からもよくその話を耳にしていました。しかし、そのお花畑は人を喰らうと噂される狼が住んでいる場所でした。実際に目にしたわけではないが、きっとその狼が君のお姉さんを殺したのだろう。猟師はそう話しました。

 

少年は決めました。

死んだはずの姉の姿に扮(ふん)し、狼を誘(おび)き寄せ、そして殺した後に自分も姉の後を追おうと。悲劇の始まりでした。

 

 

――――赤ずきんとなった少年のお話。